07/14/2006 にアップした文章です。

 

713ページある英語版だったのですが、終了いたしました。私としては Da Vinci Codeよりも好きだった。これはそれほどの驚きでもなく、コマーシャル化が大いに進んでしまったとはいえ、著者も同じ気持ちなのではないか?と疑っています。同じ主人公である Robert Langdonの先行物語です。なぜ主人公にLangdonという苗字を使ったのかも、この本を読み終わったあとの Acknowledgementを読むとわかります。アーティストである物語中に使われているデザインを提供してくれた、著者 Dan Brownの友人の苗字なのです。Da Vinci Codeのルーヴル美術館のエレベーターシーンで出てくる「閉所恐怖症」の説明のくだりは、こちらの本で詳細に描かれていますし、なぜミッキーマウスの腕時計をしているのかも詳細になっています。

Dan Brownがなぜこれまで埋もれていたのか、ここはかなり不思議なこと。なので、ちょっと読んでみました。http://www.danbrown.com/

英語の先生をしており、1996年にデビュー作であるDigital Fortressを執筆。次作が Digital Pointで、このふたつの視点はプロットを読む限りにおいて、Tom Clancy的に作品に取り組んでいたのか?と思わせます(ちなみにTom Clancyは作品を手がける前にロシアには一度も訪れておらず、あの知識を得る力には、私は大いに敬服しています)。このふたつの作品は、E-booksでセールスを狙っており、出版社と編集者のプロモーションだったのでしょう。が、彼を世間に出したかった彼らの目的は読めます。

彼の読書量はものすごいし、彼は朝4時からを執筆時間に充てています。エクササイズもしているそうだし・・・。Da Vinci Codeの次の作品も、Robert Langdonシリーズになっているそうですが、まだリサーチの最中で、2年はかかるそうです。やっぱりあれだけの事実を調べ上げていくにはそれくらいかかるのだろうな・・・。とはいえ、彼はDa Vinci Codeだけで250ミリオン(290億円くらい)儲けているはずなので、生活のために活動するのではなく、芸術や生きがいのために書いているステージにあるので、読者としても待たねばならぬ、というジレンマです。

サイトには、英語がわかる人が楽しめるコード解析のページもあり(Secretsがそれ)、長い次作までのあいだエンターテインしてくれようという努力があります。もう著書や映画のプロモーションはいいじゃん、と思いますが、オタッキーな人には本当にたまらないのでしょう。私は、こちらのAngels & Devilsのほうが好きだったので、そちらのほうを楽しもうと思っています>ちょこっとだけフォトギャラリーやその他の情報あり。

さて、なぜこの本がすごかったのかというと・・・、Da Vinci Codeの前振りである Big Questions(命題)を取り扱っていること。美術や歴史などの見識も深まりますが、人間が生きている以上、いつかはぶち当たるであろう「人はなぜ生まれてきたのか」「神はこの世にいるのか」「愛とは」「名誉とは」「科学と宗教とは」などの、でっかい命題に取り組んでいるものなのです。それらは、誰かが誰かのために答えてくれるものではなく、登場人物のさまざまな生い立ちと世界観を含め、いろいろな立場の人たちからのその命題に対する考え方を披露してくれています。

実は、営業に行くその日に最後に差し掛かっていたのですが、分厚いペーパーバックを電車の中で夢中になって読み続け、私はパブリックで泣いてしまいましたよ(爆)。日本の夏に化粧をしていたのはおそらく12年ぶりくらいのことだったので、なんだかとても焦ってしまい、鏡を電車の中で取り出すわけにも行かず、読みすすめたいが泣きたくないし、どうしても止められないし、とジレンマに陥っていたのです。が、目的駅に到着してしまい、アポイントメントの時間があったので読書は止まりました(爆)。

最近の私のミステリーを読むときの最大の失望は、「犯人がすぐわかってしまうこと」にあります。Alex Delawareシリーズも、Robert B. ParkerのSpenser シリーズも、Patricia Cornwellの検屍官シリーズも犯人がすぐにわかってしまうようになって長くなります。が、その道のりの解説は、作者の力量によるものです。そろそろ検屍官シリーズは飽きてきたのです。Patricia Cornwellの Jack the Ripperへのこだわりがハナについていることもありますし、検死流行により彼女の情報のアップデートには怠慢が見られる。Spenserシリーズは人物を追いかけているので、事件がどうなろうと人物が読めればいい、という満足感から読み続けると思います。Alex Delawareシリーズも同様で、さらに心理学への情熱は消えそうにありません。

が、このストーリーは犯人がわかっていたにも拘わらず、動機やそこまでの道のり、複雑なプロットやアナグラムや落とし穴など、これほど楽しめる作品は、今の私のバックグラウンドや知性を考えるにあたり、なかなかお目にかかれないのだろうと思います。しかも、命題に取り組む姿勢がすごい。さすがに英語教師だなぁ(ちなみにStephen Kingら、著名作家は英語教師を経験した人々が多い。子どもの頃からの読書量の圧倒的な違いを生む傾向にあるのだと予測)。作品の主人公のシンボロジスト(Symbologist)という職業にあると、物事を見る視点に柔軟性がなくてはならず、世界観がきっちりかっきり型にはまっていては務まらず、美術や建築や生活備品などにも詳細な記憶やその理論をきっちり理解しておらねばならず、それはそれは可能性のある主人公だと思ってはいましたが、このVatican(世界最小の国;ローマの一部のような見方をされることもあるが、カソリックの頂点を網羅。その財産と知識と歴史は、現存する頂点)を舞台にした24時間を描いたドラマには適役でした。おそらくDan Brownも自分のスタンスは持っていながらも、他人の考え方に対して柔軟でありたいと願っているので、こういった体現の仕方になったのだと推測できます。私もそうありたいものです。エッセイで文句ばっかり垂れている印象なので、狭い小さい人間だと反省しています。

ローマ法王がどのくらいすごい立場にいるのか、わかっていない人にはわからないままで、この命題とドラマ展開のすごさはおしまいになってしまいます。私は日曜学校に通ったバックグラウンドと、アメリカに18年以上住んだ経験があり、カトリックの歴史や視点について、現在の苦悶についてある程度理解しています(この前の掲示板で、プロテスタントを一からげにしていた人がいたのですが、カトリック以外にあるのがプロテスタント(To protest;抵抗する)であり、さらに厳しい教派から、ゆるゆるの教派まで、すべてを網羅してんのにな、と思ったのは私だけではないはず・・・。図としては真ん中の○がカトリックで、その回りにいるすべてがプロテスタントなので立場としては論理にならず)。

法王が子どもを持っていた、という事実が明らかにされたことが転機となり、この事件の動機になるのですが、その法王が子どもをどのように持ったのか、が、科学へと繋がっていき、宗教心とは、神とは、カトリック教会とは、などの大きな命題に繋がっていきます。その父と子どもは、全能の神と人々という子どもたち、という構図にも転化されていき、プロットはものすごくよくできています。冒頭の科学者兼神父の殺人から、わずか24時間ほどの枠の中で、いろいろな事実が浮き上がり、歴史を辿り、人々はそれぞれの立場や考え方で、出来事に取り組んでいきます。

あー、これはまさしく世界の縮図で、その出来事が何であったとしても、これほどのマグニチュードがないにしても、人はこうして生きていくのだ、地球がなくなるまで、と、最後に私は思ったわけです。ある人にとってはどうでもいい出来事であるバチカンの衰亡と隆盛。が、ある人にとっては生命を賭けるほどの大きな出来事。それについてどのように扱うか、は、まさしく個人こじんに問われている日々の態度であると、思ったわけです。他人事を他人事とすることに慣れている日本のみなさまには、このシリアスさがわかるだろうか?インドの列車テロ事件、いろいろな殺人事件、ジタンの頭突き事件など、マスコミがどれだけ私たちを愚弄しているのかを理解しつつ、真摯に物事を見つめていく目を持っていただけたらな、と、さらにそこへと想いは繋がっていきました。

隣にいる愛する人を大切にするには、自分のことのように扱うことができることが必要です。が、それができない人がどれだけ多くなったことか・・・。嘆いてばかりはいられないので、私も励行するよう心がけていきます♪