笑顔の意味は万国共通じゃない—日本人の「営業スマイル」

あなたは英語で話すとき、笑顔になっているだろうか。「笑顔は万国共通のコミュニケーション」そう思っていたとしたら、今日その認識を少しだけ考え直してほしいかも。

笑顔は、文化によってまったく違う意味を持ち、その違いを知らないまま英語を話すと、意図せず相手に「この人は何を考えているんだろう」という印象を与えてしまうことがある。

日本人はよく笑う国民か、笑わない国民か

興味深い数字がある。

会話中に「笑筋」が動いている時間を計測した研究(佐藤綾子・ハリウッド大学院大学)によると、日本人は平均34秒/分、イタリア人は56秒/分だった。

この数字だけ見れば「日本人はあまり笑わない」となる。外国人が日本を訪れたときの印象もそうだ。「日本人はクールで感情を表に出さない」と言われることは多い。

ところが一方で、「日本ほど笑顔の多い国民はいない」と指摘する研究者もいる。これは矛盾しているように見えて、実は矛盾していない。日本人の笑顔は「Laugh(声を出して笑う)」が少なく、「Smile(礼儀・マナーとしての笑顔)」が多いから。

コンビニのレジで、電話口で、初対面の挨拶で。日本人は驚くほどよく微笑む。でもそれは「楽しい」「嬉しい」という感情からではなく、「場を整える」「相手への配慮」として機能する意味を持つ。

文化が違えば、笑顔の「読み方」も違う

ここが英語コミュニケーションにとって重要なポイントになる。

研究によると、移民の多い国(アメリカ・カナダなど)では、笑顔を「幸福・友好的」なシグナルとして受け取る傾向が強い。一方、移民の少ない国(日本・中国など)では、笑顔を「服従」や「へりくだり」として捉える傾向がある。

さらに興味深いのは、リーダーシップと笑顔の関係だ。

アメリカでは、社会的地位が高い人ほど大きな笑顔を見せる。笑顔はオープンさと自信の象徴だからだ。ところが日本や中国では逆で、立場が上の人ほど笑顔を見せにくい傾向がある。笑顔が「へりくだり」に見えるからだ。

つまり、日本の上司が部下に見せる「威厳のある無表情」は、アメリカ人の目には「冷たくて近づきがたい人」と映り、アメリカ人マネージャーの「満面の笑顔」は、日本人の目には「軽い人」に見えることがある。

同じ顔の動きが、まったく逆の印象を生む。それが文化の壁だ。

「営業スマイル」が英語では通じない理由

日本語に「営業スマイル」という言葉がある。感情と表情が一致しない、社会的な笑顔のことだ。日本人はこれを自然に使いこなしている。むしろ、感情と表情を一致させすぎることを「子どもっぽい」「プロらしくない」と感じる文化すらある。

ところが欧米人がスマイルする場面は、多くの場合「あなたと仲良くなりたい」というフレンドリーな意図の表れだ。感情と表情が連動している。だから外国人が日本人の営業スマイルを受け取ったとき、「笑っているのに目が笑っていない」「何を考えているか分からない」という違和感を覚える。表情と感情のズレを、無意識に察知するからだ。

これが、外国人が「日本人の笑顔は読みにくい」と感じる主な理由だ。

では、英語で話すとき笑顔はどうすればいいのか?答えは「笑顔をやめる」ではない。笑顔の「質」を変えることだ。

早稲田大学の宮崎教授の研究では、会話中の何気ない笑顔には「情報の受発信のスピード・容量・親和性を一変させる効果」があることが実験で確認されている。つまり笑顔は、英語力そのものに関係なく、コミュニケーションの質を上げる力を持っている。

ただし、それが機能するのは「社会的スマイル」ではなく、感情と連動した笑顔。

英語で話すとき、相手の言葉に本当に面白いと思ったら笑う。嬉しいと思ったら顔に出す。同意したら大きくうなずく。「感情を表情に乗せていいんだ」という許可を、自分に与えること。

それだけで、あなたの英語は——たとえ文法が完璧でなくても——相手に「この人と話したい」と思わせる力を持ち始める。

日常で試してほしいこと

今日、誰かと話すとき——日本語でも英語でも——一度「今の自分の笑顔は、感情から来ているか、それとも反射か」を観察してみてほしい。

英語学習は、言葉を覚えることだけではない。自分のコミュニケーションのクセに気づき、それを意識的に選び直すプロセスでもある。笑顔ひとつにも、それだけの深さがある。がゆえに、文化的差異を教えない英語スクールを、私個人はまったく信じない。