「聴いているのに、よくわからなかった」という体験はないだろうか?言葉は聞こえている。意味もわかる。でも、なぜかその人が言いたいことが、腑に落ちない。それは、言語の問題ではないことが多い。前提の問題だ。
「理解する」ための4つのレベル
言語理解には、段階がある。
- 第1レベル:言葉の意味を知る(語彙)単語がわかる。これが理解の入口だ。
- 第2レベル:文の構造を理解する(文法) 文がどう組み立てられているかを理解する。
- 第3レベル:文脈と前提知識を使って意味を構成する(推論) 言葉の字義通りの意味だけでなく、「この文脈でこれを言うとはどういうことか」を考える。
- 第4レベル:話し手の意図・感情まで読む(心の理論「この人はなぜ今これを言っているのか」「どんな気持ちで話しているのか」を読む。
英語学習における最大の壁は、実は第3・第4レベルだ。語彙も文法も理解できているのに、「なんか話が噛み合わない」「何を言いたいのかわからない」という状態は、この推論と心の理論の層で詰まっている。
そしてここが重要なのだが、日本語でこの第3・第4レベルの思考が弱い人は、英語でも同じ壁にぶつかる。
「共通知識基盤」がないと会話は成立しない
言語学にCommon Ground:共通知識基盤という概念がある。コミュニケーションが成立するためには、話し手と聴き手の間に「共有された前提知識」が必要だという考え方。
たとえば、「最近の〇〇の件、大変だったよね」という言葉は、その「〇〇の件」を知っている人にしか伝わらない。背景を知らない人は、言葉は理解できても意味が構成できない。
これは英語でも同じだ。
英語が流暢でも、相手の文化・価値観・背景を知らなければ「聴いているのに理解できない」が起きる。逆に、英語が多少たどたどしくても、相手の背景をよく知っている人との会話は、驚くほどスムーズに進む。
英語力より「その人の文脈を知っているか」の方が、理解の精度を決めることがある。
日本語力が英語力の天井を決める
言語習得研究には「言語間転移理論」という概念がある。母語での概念形成が弱い人は、外国語習得も難しいという考え方で、相関関係にあるというもの。
語彙力・比喩理解・論理構成力は言語を超えて転移する。「日本語でどんなテーマでも深く考えられる人」は、英語でも同じ深さで考えられる可能性が高くなる。
逆にいえば、「英語力を上げたい」なら、日本語での思考の深さを鍛えることが、遠回りのようで実は最短ルートになることがある。
日本語で読書をする。日本語で自分の考えを言語化する。日本語で誰かの話を深く理解しようとする。これがそのまま英語力の土台になる。Precious One English Schoolのカリキュラムはそれを体現しているので、みんな話せるようになると自負しています。が、やめちゃったら無理だからね・・・。(・・;) そこも続くような設計にしているつもりなのだけれども。(・_・;)
「わかった気になる」と「本当にわかる」の差
誰かの話を聴いた後、「なるほど」と言いながら、実は表面だけ受け取っていることがある。
「わかった気になる」:相手の言葉を自分の既存の枠組みに当てはめて処理する状態だ。「ああ、そういうことね」と理解した気になるが、相手が本当に言いたかったことの前提まで辿り着いていない。
「前提まで問い直す」;「この人がこう言うとき、どんな経験・価値観・文化がその背景にあるのか」まで考える状態。
たとえば、アメリカ人の同僚が「それは私の責任ではない(That’s not my responsibility)」と言ったとき。日本的な感覚では「無責任な発言」に聞こえるかもしれない。でもアメリカのビジネス文化では、役割と責任の範囲を明確にすることは、誠実さの表れだ。前提を知っていれば、まったく違う意味に聞こえる。訳しただけではわからないことだらけになる可能性が高まる。
この「前提から理解しようとする姿勢」こそが、知的成熟のサインだと思う。
今日から試せること
他者の話を聴くとき、一度だけ「この人はなぜそう思うのか」を問いかけてみてほしい。「そういう意見もあるね」で終わらず、「この人がそう思う背景には何があるのか」まで考える。
日本語で、毎日、一人の人に対してそれをやってみる。その習慣が、英語での理解力を、言語能力の向こうへと引き上げていく。






