英語学習前に考えてみる日本語力と本来の自分のスキル その14 どうせなら相手が理解できるように相手の立場に立てているか?
心理学でいう「パースペクティブ・テイキング(視点取得)」——相手が今どんな知識・状況にいるかを想像しながら話す力——は、母語・外国語を問わず、伝わるコミュニケーションの土台になる。特に英語学習では、「自分が言いたいこと」を文法的に正しく組み立てることに気を取られがちだが、実は「相手が何を知らないか」を想像する力のほうが、伝わる・伝わらないを左右することが多い。
たとえば、自分にとって当たり前の背景(会社名・地名・固有の状況)を、相手も知っている前提で話してしまうと、文法が完璧でも会話は成立しない。逆に、相手の立場を想像して「これは説明が必要だな」と判断できる人は、多少文法が不完全でも、驚くほどスムーズにコミュニケーションが成立する、というのは語学教育の現場でよく語られる現象。
この力は、実は子どもの発達過程で自然と身につくものでもある。発達心理学では、4〜5歳頃から「他者は自分と違う視点を持っている」と理解し始めるとされ(誤信念課題という有名な実験群で確認されている)、大人になってから改めて意識的に鍛え直す機会は意外と少ない。語学学習は、その力を大人になってから再訓練する良い機会とも言える。
CSQの文脈で言えば、この「相手の立場に立つ力」は、まさに文化を切り替える力の土台部分にあたる。英語という言語だけでなく、相手がどんな文化的背景・価値観を前提に話しているかを想像できるかどうかが、コミュニケーションの質を大きく左右する。言語スキルと文化理解力は、切り離せない両輪のようなものだと言える。
ビジネスメールを例にすると、この違いはさらに分かりやすい。日本語のメールは背景説明を省いて結論だけ書いても失礼にあたらないことが多いが、英語圏の相手には、なぜその依頼をするのか、いつまでに必要か、といった文脈情報が同じメールの中にないと、返信すら来ないことがある。「察してもらえる」前提を手放すことが、国際的なやり取りの第一歩になる。
正直に言うと、私自身がスピードを伴った行動をすることが多いタイプなので、自分とペースが違う生徒さんの立場を思いやれていない場面はたぶん多いと思う。同居人が料理をしているのを見ていると、それを強く感じる。煮物の鍋をただ眺めていて、その間に洗い物をしない——ああ、この人にとっては今はこれが実力なんだな、と思う瞬間がある(笑)。自分の当たり前のスピード感を、相手も同じように持っているはずだと無意識に前提にしてしまうこと自体が、実はパースペクティブ・テイキングの失敗の典型なのだと思う。
前回(その13)のテーマは、状況を客観的に、5W1Hで整理して話せるかどうかだった。今回のテーマとのつながりを考えると、そもそも自分のことを客観視できない人というのは、Self-Esteemが低く、自分を第三者的に見る視点を持てず、感情が言葉に乗りすぎてしまう人なのではないかと思う。だからこそ、立場というのは人やモノ、SとOの数だけ無数に存在する、ということに気づけるかどうかが分かれ目になる。自分を客観視できて初めて、相手の視点にも立てる。その意味で、その13とその14は表裏一体のテーマだと思う。
レッスンで一番簡単に使っている練習法は、椅子取りゲームを想像してもらうこと。椅子が変われば、見える景色そのものが変わる。そこから発展させて、「最近どこに行った?」という切り口で質問してみる。たとえば温泉ひとつとっても、草津と伊豆では見える景色も体験もまったく違う。同じ「温泉」という言葉でも、そこから見えている世界は人によって違うのだと気づいてもらうところから、この練習を始めている。






