英語学習前に考えてみる日本語力と本来の自分のスキル その15 相手に質問をされており、その内容に答えられているか?
会話がすれ違う典型的なパターンのひとつが、「質問には答えているつもりで、実は別の質問に答えてしまっている」というもの。これは母語でも起こることだが、外国語だと、聞き取った単語の一部だけに反応して的外れな返答をしてしまうケースが増える。
「今、何を聞かれたか」を一度自分の言葉で言い換えてから答える、という一手間が、実は一番効果的な対策とされている。英語では”So, you’re asking whether…”のように、質問を確認してから答える言い回しがよく使われるが、これは単なる丁寧表現ではなく、聞き取りのズレを防ぐ実践的な技術でもある。
特にYes/No疑問文と5W1H疑問文の聞き分けは、初中級者がつまずきやすいポイントとして知られている。”Do you…”で始まる質問にYes/Noで答えず延々と説明してしまったり、逆に”Why did you…”という理由を聞かれているのにYes/Noで答えてしまったりするケースは、レッスンの現場でも頻繁に見られる。
この「質問に正確に答える力」は、実は面接や商談など、英語以外の場面でも評価を左右する力でもある。聞かれたことに端的に答えず、話が横道にそれてしまう人は、母語であっても「コミュニケーション能力が低い」と誤解されやすい。英語学習を通じてこの型を意識的に練習することは、日本語での会話力そのものの見直しにもつながる、というのがこのコラムシリーズ全体を貫くメッセージでもある。
質問への応答パターンを整理する練習として、「結論ファースト」の型を意識するのも効果的とされる。まず端的に答え(Yes/No、または一言の結論)、そのあとに理由や補足を続ける、という順序を徹底するだけで、聞き手にとっての分かりやすさが大きく変わる。これは英語のプレゼンテーションでも基本とされる構成で、日本語の会話にもそのまま応用できる。
質問と答えのズレは、話し手・聞き手どちらか一方の問題ではなく、双方向のコミュニケーションの結果として生まれるものでもある。聞き手側が「今の質問、こういう意味で合っていますか」と一言確認するだけでも、すれ違いはかなり防げる。話す力だけでなく、確認する力も、対話の質を左右する重要なスキルだとされる。
実際のレッスンでも、このズレは頻繁に起こります。英語基礎コースで一度教えたことが、生徒さんの中に蓄積されずに抜けてしまっていると、そこを前提とした次の質問に、どんどん答えがズレていってしまう。以前はそこに苛立つこともありましたが、かなり早い段階で「何十回でも言ってやる」と割り切るようになりました。前提が積み上がっていないなら、また積み直せばいいだけの話です。
日常のやり取りでも、似たようなことがあります。私は「甘いものは食べない」とかなり率直に伝えているのですが、それでもお土産にお菓子を持ってきてくれる方はいます。そのとき私は、「私は食べないんだけど、生徒さんに配っちゃっていいよね?」とダメ押しで確認します。すると不思議なもので、次第におせんべいやナッツ、お酒のあてになるようなものを持ってきてくれる人が増えていく。質問と答えのズレを、その場でこまめに正していくと、いいサイクルが自然にできあがっていくんです。
これができるようになると、生徒さんの学び方そのものが変わります。単語を一つひとつ暗記する必要がなくなり、構文にこだわらなくもなる。聞かれたことの核を正確に掴めるようになると、丸暗記に頼らなくても、その場で言葉を組み立てられるようになるからです。
言い換えのフレーズとして、私がよく生徒さんに確認するのが「覚える」という一言です。日本語の「おぼえる」には、憶える(remember / memorize / rote)と、覚える(feel / master)という、まったく違う二つの意味が同居しています。生徒さんが「覚えました」と言ったとき、それがどちらの意味なのかを、私は毎回きちんと訊くようにしています。丸暗記したのか、感覚として身についたのか。この一言を確認するだけで、次に何を練習すべきかがはっきり見えてきます。






